クレヤボヤンス 映画話 > 長文 No. 003


クレヤボヤンス
感涙の映画 ( 後編 )

 第三回は、なんとなく前回のお話の続きです。


 前回の文章の 「 ニューシネマパラダイスはいいねぇ 」 という部分、非常に書きづらいものでした。
 すでに皆が評価している作品に対して、あらためて 「 いいねぇ 」 などと書くのは、かなり恥ずかしいものです。

 例えば……。 たまに映画誌の個人情報欄などを見ると、

『 レオン 』 はもうご覧になりましたか?
まだ観ていない貴女、ボクと一緒にビデオ鑑賞しませんか?

34歳・会社員

……といったような投稿があったりして、僕を赤面させます。

 『 レオン 』 は、そりゃあ面白い映画です。 僕も映画館に観に行ったし、パンフレットまで買っちゃいました。
 感動した人も多い作品でしょう。

 ……しかし、いや、それだけに、自信ありげに

『 レオン 』 はもうご覧になりましたか?

とか書かれると、もう本当に恥ずかしくなってしまいます。
 観たっちゅーの! 感動もしたっちゅーの!

 もちろん、まだあの映画を観てない方も大勢いるのでしょうが、あのくらい有名になっちゃった作品を引っぱってきて、自信ありげに

『 レオン 』 はもうご覧になりましたか?
( しつこいな、ワシ )

とか言われると、「 うぅ…… 」 と悶えてしまいます。
 伝わるかなぁ、この気持ち。

 先日、【 ゲストの芸能人が、好きな映画について語る 】 という企画のテレビ番組 ( テレビ神奈川かな? ) で、元ボクサーの薬師寺保栄がやっぱり 『 レオン 』 を語っていましたが……。
 そりゃもう、こっぱずかしいトークでした。
 家族でテレビドラマを見てるときにエロシーンになっちゃった時と同じくらい狼狽しました。

 ……とにかく、そういった意味で、前回の 『 ニューシネマパラダイス 』 の件は書いていて辛いものがありました。




 『 ドラえもん・のび太と鉄人兵団 』

 この映画が、僕の 「 ナンバーワン・泣き映画 」 だ。


* 泣き映画

 見栄を考えると、「 ニキータ・ミハルコフの…… 」 とか、「 ヴィスコンティの…… 」 とか、そういう映画を ナンバーワン として紹介したほうがカッコイイような気がする ( ←ワシ基準 ) のだが、残念ながら 『 ドラえもん 』 がワシの1位である。
 なんだか自分の単純さを露呈しているようでシャクなのだが……しようがない。
 三つ子のたましい百まで。
 ドラえもん的な感性に育った自分がムシスカン。 ( でもニクメナイン )
 人生もしもボックスですよ、実際の話。


 『 ドラえもん 』 の大長編映画は1年に1本のペースで作られる。
 『 ドラえもん ・ のび太と鉄人兵団 』 は第7作目にあたるはずだ。
 原作は少年誌に掲載されていた作品なのだが、『 鉄人兵団 』 を本で読んでも泣くことはなかった。



 ある日、兄が借りてきたビデオ版の 『 鉄人兵団 』 。
 原作を読んで話のスジを知っていた僕は、特に集中するでもなく兄の横で画面を眺めていた……

 が。


 映画後半、僕はもはや動けなくなっていた。
 ちょっとでも体勢を崩したら、涙がこぼれてしまいそうだったのだ。


 ( は・はめられたぁっ! )


 まさか家族の前で 『 ドラえもん 』 観て泣くわけにはいかない。
 どうしよう……。

 ( まてよ! 確か、こんな 格言 があったはずだ……! )


 〜 男には、人生で三度だけ、泣いてもいい場面がある 〜
  1. 親が死んだとき
  2. 努力の末、夢をかなえたとき
  3. のび太がリルルを撃てなかったとき



 ( ……なんか……3番目は違う気がする。 やっぱり泣いちゃだめだっ )

必死に涙をこらえる僕。


 ( うう……なんてキビシ〜映画を借りてくるんだ。 このクソ兄…… うぉう!?


 僕の横には、そのクソ兄貴がかなりウルウルしている姿があった。
 ( こんなに感動しちゃう映画だったとは、兄貴にとっても予想外だったのね…… )





 ……分かっていただけるだろうか。
 この映画、ホントにハンパじゃなくヤバイ、感動作なのである。 ( ← 僕 & 兄 基準 )





涙腺が刺激されるシーン in のび鉄

※ ものすごく ネタバレ してます。
 いつかこの映画を観ようと思っている方は読まないでください。


のび太がザンダクロスをリルルに渡してしまう

 のび太・ドラえもん・しずかは、「 ザンダクロスのことは三人の秘密だ 」 と誓った。
 しかし、のび太はリルルに秘密をもらしてしまう。  約束をやぶってしまったのび太がつぶやく。
 「 ドラえもん……。 」
 力無くつぶやくあたりがせつない。

深夜、のび太とドラえもんが鏡面世界で兵団の秘密を見てしまい、追われるはめになる

 誓いをやぶり、リルルにザンダクロスを渡してしまったのび太だったが、結局ドラえもんにすべてを打ち明ける。
 その後、兵団の地球征服の企みを知ったのび太とドラえもんは、兵団に見つかり追われる。
 兵団につかまりそうなのび太を必死に助けるドラえもん。
 「 のび太君しっかり! 」
 ああ……書いてるだけで涙が出てくる。 やっぱり二人はいつでも一緒なんだなぁ。

追ってきたジュドの手が 「 おざしきつりぼり 」 からザバ〜ッと飛び出す瞬間

 「 のび太の夢 」 であったザンダクロスはもういない。 なんか悲しい。

爆風で地面に埋まってしまったドラえもんの声

 先に地面から這い出たのび太がドラえもんを探す。
 「 ドラえも〜〜ん! 」
 「 ……ここだよぉぉ 」
この 「 ここだよぉぉ 」 の声がめちゃめちゃかわいい。 別に涙腺は刺激されないけど。

ロボットに襲われるしずかを危機一髪で助けるのび太

 のび太は冒険の世界で一所懸命生きてます。
 僕も子どもの頃はそんな世界を夢見ていました。
 僕はのび太がうらやましくて涙がでるのです。

兵団との戦いに備え、無人の世界のスーパーマーケットで好き放題に食料を手に入れるシーン。
( ジャイアンの 「 いっぺんハムを丸ごと食べてみたかった 」 というセリフが聞ける )

 このシーンで流れる曲は武田鉄也作詞の 『 ポケットの中に 』 。
 大長編第1作 『 のび太の恐竜 』 でも使われていた曲だと思います。
 ドラえもん ( の声優の大山のぶ代さん ) が歌っています。 歌詞が泣けます。

ポケットの中に

ボクはここにいる 君のポケットに
君といっしょに 旅するために
待っていたんだよ 気づいてくれるまで
君が夢にみたものは 何だろう
いまからそこへ ふたりでいこう
とっても遠くて 近い世界だよ
ポケットの中にも 空がひろがり
ポケットの中にも 雲が流れる

こんなすてきな 世界があるんだよ
ボクと君が 旅する世界

ボクはここにいる 君の目の前に
君がおとなに なるまでは
あそびつづけよう ボクといっしょに
君が夢にみるものは 何だろう
いまからボクが とりにゆくから
いってごらんよ 大きな声で
ポケットの中にも 海がひろがり
ポケットの中にも 鳥がとびたつ

こんなすてきな 世界があるんだよ
ボクと君が 旅する世界

 夢の象徴であるドラえもんはすぐそばにいるんだよ、って歌詞なんですが。
 でも、人は年をとるごとに 「 現実をみなきゃ 」 とか言って、夢を持たなくなる。
 自分が夢を持っていることを忘れがちになってしまう。

 本当は自分ものび太のような大冒険をしてみたかったのに、 いつまでもリアルにならない 「 自分のドラえもん 」 を追いかけきれず、夢を忘れがちになるんですね。
 『 ポケットの中に 』 を聴くと、そういう今の自分に気づいて泣けます。

 しかも歌詞の中に
「 君がおとなに なるまでは あそびつづけよう ボクといっしょに 」
って、しっかり書いてあるんですよね。

 ( オレにはもう、ドラえもんと旅する資格は無いのかも )
って思うととても悲しくなるんです。 単に 「 年をとった 」 ってことだけじゃなくてね。
 自分があまり夢を見なくなったことを再認識しちゃって、悲しくなるんですよ。

リルルの傷の手当てをするしずか

 悪いロボットではないと信じて、敵であるリルルを看病するしずか。
 だが、兵団の一員であるリルルはビームでしずかを襲う。
 怪我が治りきっていないリルルは、弱いビームを放っただけでその場に倒れる。
 部屋を飛び出すしずか。
 「 もうアンタなんて……! 勝手にこわれればいいんだわ! 」
 暗い廊下で涙を流すしずか。
 「 せっかくお友達に…… ( グスン ) 」
 涙をふきつつ、そっと部屋に戻るしずか。
 「 ……やっぱりほっとけない 」

 涙を流すワシ。
 ( しずかちゃんはなんて優しいんだぁ〜 )

リルルを撃てないのび太

 リルルは兵団に戻るために、しずかの目を盗んで逃げ出した。
 崩壊した街の片隅で、のび太は逃亡中のリルルを発見し、銃口を向ける。
 のび太の手が震える。
 「 リルル! ……行けば撃つぞ! 」
 リルルは兵団を裏切ることはできないものの、人間の優しさを理解しはじめていた。
 晴れやかな表情で答えるリルル。
 「 いいわ……撃って! 」
 のび太がリルルを撃たなければ地球が危機にさらされてしまう。 しかし……
 沈黙の末、のび太は銃を下ろした。
 「 ……だめだ…… 」
 「 いくじなしっ 」
 リルルは厳しい表情でビームを放つ。
 ビームに撃たれ、失神するのび太。 その姿はぶざまである。
 だが、このぶざまに倒れた姿こそが 「 人間の優しい心 」 を象徴しているのだ。

 涙を流すワシ。
 ( ウンウン。 それが人間の良さだよな、のび太っ!! )

兵団の進撃をくいとめようとするのび太たち

 圧倒的な数の鉄人兵団に、たった4人で立ち向かうのび太たち。
 「 地球を守るんだ! 」

 「 地球を守るんだ! 」 って……のび太はまだ小学生ですよ!?
 なんてけなげなんだ! ジーンときます。

クライマックス

 何も言うことはありません。
 映画史上、まれにみる感動の名場面。





 ……あー、書いた書いた。
 長年、「 誰かに伝えたい 」 と思っていた感動を、やっと文章にしたぞ。

 でも、『 ドラえもん 』 に思い入れがない人は全く感動しないのかもしれない。

 以前、付き合っていた彼女と一緒に 『 のび太と鉄人兵団 』 をビデオで観たことがあった。
 しかし、彼女は終始平然としていた。

 僕はトイレで感動の涙をこらえつつも
( なんて心が冷たい女なんだっ )
と憤慨していた。

 が、考えてみれば 「 感動には個人差がある 」のだから仕方がない。
 っていうか、ドラえもんで泣かないだけで 「 冷たい女だ 」 とか思われたらやってられんわな。



 いつだったか、ダウンタウンの番組で、柴田理恵さん ( ←漢字まちがってるかも ) が 『 のび太の結婚前夜 』 のエピソードを語りながら号泣しているのを見たときは、テレビの前で
「 分かる、分かるよその気持ち! 」
と何度も頷いた。


 一時期チェーンメールとして流行した 「 ドラえもん・ニセ最終回 」( ドラえもんが止まっちゃうストーリー ) を電話で友達に話して聴かせた時は、涙で声がつまった。



 ドラえもんに思い入れのない人には理解できないのかもしれないが、僕にとっての 『 ドラえもん 』 はただのマンガではなくなってしまった。

 『 ドラえもん 』 を読んで育った僕は、このとぼけたマンガのなかに、子どもの頃の夢や、友情や、いろんなせつなさを詰め込んでしまった。

 そして数々のストーリーは、のび太の冒険が他人事とは思えなくなってしまうほど僕の記憶に染み込んでしまったのだ。


 ……いや、だからどうだってことじゃないんだけどね。 うんうん。
 まあ僕と同じ感覚の人は 『 鉄人兵団 』 にガツンとやられちゃうと思うぞ、と、まあそういう話でした。


* ついでに余談

 藤子・F・不二雄氏が亡くなったとき、なぜか僕は、あまりショックを感じませんでした。
 『 ドラえもん 』 を身近に感じるあまり、「ホントは漫画家が描いた架空の物語なんだ」 っていう認識が麻痺してしまっているのかも知れませんな。



 『 のび太と鉄人兵団 』 は、僕が人に
「 絶対観て!! 」
と強引に勧める、 唯一の 映画なんです。





クレヤボヤンス 映画話 > 長文 No. 003